
日本では近年、子どもを公立小学校に通わせず、フリースクールをオルタナティブ教育の場として選択する家庭が増えています。これまでフリースクールは、いじめや不登校といった事情を抱える子どもたちの「居場所」として位置づけられることが一般的でした。しかし現在は、最初から公立学校に進学せず、自由度の高い学びを求めてフリースクールに通う子ども・家庭が増加しています。
毎日新聞は英語版の記事は、フリースクールに通う児童・生徒が増加しているその実情について報じています。
同紙は変化の背景にまず保護者の教育観の変化があると指摘します。従来の学校教育は、一斉授業や暗記の反復、教師の指示に従うことが重視されてきました。しかしその方法では、子どもが自分の考えを表現する機会が限られ、学ぶ意欲を失うのではないかという懸念を持つ保護者が増えているとします。フリースクールでは、子ども同士が意見を出し合ったり、学年の枠を超えて体験活動に取り組んだりすることが多く、従来の学校では得にくい学びが期待されています。
一方、フリースクールは学校教育法上の「小学校」には含まれないため、制度的にはグレーゾーンにり、多くの場合に子どもは形式的に地域の小学校に籍を置き、フリースクールへの出席を報告する形で卒業証明を得る必要があるとされています。その際、教育委員会の対応や学校の理解が得られず、入学や出席扱いをめぐってトラブルになる例など課題についても同紙は報じています。制度上は「義務教育の規定に抵触する可能性がある」と指摘されることもあり、保護者が不安や葛藤を抱える一因となっています。
なお統計的にも不登校やオルタナティブ教育を求める動きは拡大しています。文部科学省によると、2023年度に小学校に通っていない子どもは過去最多を更新。11年連続で増加ました。その内訳として、最初からフリースクールに通っている子どもの正確な数は把握されていないものの、「積極的不登校」と呼ばれる選択は着実に広がっているとみられています。
フリースクールの存在感が高まる一方で、保護者にとって大きな負担となっているのが教育コストです。授業料は年間で数十万円から百万円を超える場合もあり、公的支援は一部自治体で交通費や学費の一部を補助する程度にとどまっています。結果として、経済的に余裕のある家庭しか選択できないという不公平さも指摘されています。義務教育の本来の理念は「すべての子どもに平等な学習機会を保障すること」にありますが、現状ではオルタナティブ教育を望む家庭に対してその原則が十分に守られていません。
こうした課題に対応するため、2017年には育機会確保法が施行され、不登校の子どもたちの多様な学習活動を認め、国や自治体が支援する方針が打ち出されました。しかし、これは主に「不登校になった子ども」の学習支援を前提にしており、「最初から学校に通わない」という積極的な選択については理解が進んでいないのが実情です。
なおフリースクールに関わる人々の間では、「不登校」という言葉そのものが時代遅れになる未来を展望する声もあります。子どもが自分に合った学びの場を主体的に選び、保護者がそれを支える形が当たり前になれば、公立かフリースクールかという二項対立ではなく、多様な学習オプションの中から自由に選べる社会が実現するのではないか、という考え方です。
日本におけるフリースクールは、まだ法制度や経済的な支援体制が十分ではありません。それでも、保護者の教育観の変化や子どもたちのニーズを背景に、着実に存在感を増しつつあります。公教育に代わる選択肢をどのように社会として位置づけ、支えていくか。フリースクールの拡大は、日本の義務教育制度の在り方を問い直す契機になりつつあります。
(EDICURIA編集部)