
中国の都市部では、ホームスクーリングと学校教育を組み合わせた「ハイブリッド教育」が静かに広がっています。制度的にも政治的にも、私立学校の設立や運営が厳しく制限されている中国では、教育の選択肢が非常に限られています。そのような状況のなかでも、親たちは子供たちの学びの環境を再構築しようとしています。オンライン教材や民間教育プログラムを組み合わせるこの新たな流れは、従来の教育制度の枠を超えた“分散型の学び”として注目されています。
傾向が目立ち始めているのは、北京、上海、深圳などの中産層家庭においてです。学校に完全に通わないというより、「学校と家庭の両方を使い分ける」という発想がその根底にあります。政府による「双減政策」(学業負担と塾依存の削減)も、ホームスクーラー増加の一因です。進学競争と詰め込み教育の是正を目指したこの政策の結果、公立教育の標準化が進む一方で、より多様な教育を望む親たちが制度の外に学びの場を求め始めました。
中国都市部のホームスクールの多くは、子供の学ぶ力にフォーカスしてその育成に注力しているといいます。彼らにとって家庭教育は制度からの離脱ではなく、創造的な教育デザインのひとつであり、MOOC(大規模オンライン講座)や海外教材、AIチューターなどのデジタルツールを活用し、学びを場所からネットワークへと拡張する実践が進んでいます。
なお中国においてホームスクーリングは法的にグレーゾーンにあります。中国の義務教育法では学校通学が原則とされ、家庭教育は例外的にしか認められていません。そのため、多くの家庭は名目上、公立学校に在籍しつつ実際は家庭や民間スクールで学ぶという二重構造を選択しています。形式的には制度内に留まりながら、実態としては制度の外で最適化を図る。中国らしい現実的な対応策だと言えそうです。
教育の自由を求める親たちは、家庭教育を支援するオンラインプラットフォーム型サービス、あるいはオンラインコミュニティを通じて情報を共有し、教材交換や共同学習の場をつくっています。彼らの教育観は「学校に頼らず家庭とテクノロジーで学びをデザインする」というもの。また教育の民主化というより「家庭主導の最適化」に近い思想です。
こうした動きは単なる代替教育の域を超え、新しい教育文化の萌芽となりつつあります。法制度が整わないなかでも、家族が協力し手探りで学びを再構築していく。その姿は規制社会のなかで始まった“静かな教育革命”と言えそうです。
(EDICURIA編集部)
