「親以外でもできること」と「親にしかできないこと」

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子どもが病気になったとき、親として仕事を優先しなければならない状況に直面することは誰にとってもつらいことです。「病気の子どもを預けて仕事をする」という選択肢に罪悪感を抱いてしまう人も多いでしょう。この問題について「なぜ罪悪感を感じるのか」「どうしたら感じなくなるのか」を考えてみました。

罪悪感を抱く理由とは?

罪悪感の根底には「子どもが病気の時くらい親が面倒を見るべき」という社会的な通念があるのではないでしょうか。親として「自分がやるべきこと」を求められているようなプレッシャーを感じ、それに応えられないことに対して心が痛むのです。また親自身が「子どもを最優先すべきだ」という価値観を持っている場合、その葛藤が罪悪感をさらに引き起こします。

しかし病児保育サービスの存在は、必ずしも親が子どもの病気を全面的に引き受ける必要がないことを示しています。このようなサポートが存在するのは、親が他の責任も果たさなければならない現実を前提としているからです。

他の人にできること、親にしかできないこと

子どもが病気の際の世話や基本的な家事は、病児保育サービスや家族、ファミリーサポートなど、他の人でも担うことができます。こうした外部の助けを利用することで親の負担を軽減し、仕事を続けることは、社会的に認められていることなのです。一方で親にしかできないこともあります。それは、子どもの将来を見据えた選択や教育方針の決定です。

子どもの教育や習い事をどうするかは、親の責任として避けて通ることはできません。一時的な代替がきかず、子どもに対する深い理解が必要とされる領域です。

私自身、現在直面している最大の課題は子どもの習い事です。どの習い事を選ぶか、スケジュールにどう組み込むか、送り迎えをどうするかなど検討すべき点が山積みです。仕事や日常の家事に追われ、夫とゆっくり話し合う時間も十分に取れていません。そうした状況では、どうしても教育に対する取り組みが後回しになりがちです。それでも「親にしかできないこと」に集中するためには、他のタスクを効率よくこなす必要があります。

罪悪感を減らすための考え方

罪悪感を軽くするためには、まず「親が全てを担わなければならない」という考えを見直すことが必要です。親がやらなければならないことと、他の人に任せてもよいことを整理し、自分のリソースを効率的に使う工夫が求められます。

親として最も大切な役割は「子どもが長期的に幸福であるための基盤を作ること」です。そのためには、短期的な世話やタスクを適切に分担することも重要です。家族や社会のサポートを上手に活用し、子どもの未来を考える時間を確保することが最善の選択です。

私自身も罪悪感に囚われないよう努めていますが、時に葛藤することもあります。ただ「時間は平等に1日24時間」という事実を受け入れ、タスクの取捨選択を行うことが大切だと思うようにしています。親にとっても、子どもにとっても、無理のない生活が理想的です。そのためには自分の価値観を見つめ直し、周囲と協力しながら最適な選択をしていくことが必要です。親としての責任を果たしつつ、バランスの取れた生活を目指すことが、結果的に子どもにとっても良い影響をもたらすでしょう。

罪悪感を感じることは、親として真剣に子どもを思いやっている証拠です。しかし罪悪感に囚われ過ぎると、本来の目的である「子どもの未来のための準備」の時間を見失ってしまいます。自分自身の役割を再確認し、他者の助けを受け入れることで、親としてより良い選択をしていけるのではないかと考えています。

  • 保田典子やすだのりこ
    高円寺こどもクリニック院長

筑波大学医学専門学群卒業。小児科医として国立病院などで診療にあたり、小児循環器を専門に経験を積む。その後、発達障害児を多数担当するようになったことで「子どもの心相談医」の資格を得る。2021年4月、高円寺駅そばに高円寺こどもクリニック開業。