
米国ではパンデミック以降にホームスクーリングの人気が急上昇していますが、その理由についてはまだ研究が進められている段階です。ホームスクーリングを選択する理由として多い思われがちなのが、宗教的な理由です。ただし、2023年の調査では「学校環境への不安(安全性や薬物問題)」や「学習指導への不満」が最も多い理由として挙げられました。
実は米国では研究者間でもホームスクーリングについてあまり多くのことが把握されていないと言われています。その理由のひとつは、州ごとにホームスクーリングの規制が大きく異なるため、どの家庭が実際に家庭学習を行っているのかを特定しにくい点にあります。また多くの家庭が、自らのホームスクーリング経験や理由について語りたがらないことも調査を難航させる理由となっています。
米国で明らかになっているのは、2020年以降にホームスクーリングを受ける子どもの割合が急増したことです。全米教育統計センター(NCES)の調査では、2018~2019年度には3.7%でしたが、2022~2023年度には5.2%まで増加しています。また全米家庭教育研究所(nheri)によれば、2021~2022年には全米で300万人以上の児童・生徒がホームスクーリングを受けていたと推計されています。
ホームスクーリングを選択する家庭の多様性も増しています。2023年にワシントンポスト・シャー・スクールが行った調査によれば、ホームスクーリング家庭の約半数が非白人であることが分かりました。また政治的傾向に、従来は共和党支持層に多いとされていましたが、近年では民主党支持層も同じ程度の割合を占めています。
2023年の教育科学研究所(IES)の調査では、ホームスクーリングを選ぶ理由について28%の家庭が「学校環境への不安」を最も重要な理由と回答しました。次いで、「学習指導への不満」(17%)、「道徳的・宗教的教育の重視」(17%)が挙げられました。また12%の家庭は「子どもの身体的・精神的な健康問題、または特別な支援が必要」と回答しました。
米国では「マスキング問題」を軽視する公教育の傾向が、ホームスクーリングに拍車をかけているという論調もあります。マスキングとは、障害によって才能が見えにくくなったり、逆に才能によって障害が目立たなくなったりする現象のことです。例えば、学習支援を受けている生徒が、実際には高度な知的能力を持っていたとしても、公教育ではその才能を伸ばす教育が受けられないと感じているそうです。反対に高い学力を持つ生徒が支援を必要としているにもかかわらず、それに気づかれないケースも少なくないとされます。
どちらのケースでも、教師は生徒の強みではなく、弱みに焦点を当てがちです。その結果、保護者は「学校では子どもの特性が十分に理解されない」と感じ、ホームスクーリングを選ぶことがあるのです。
ホームスクーリングの増加には、行動面・感情面でのニーズもあるとされています。情緒的・行動的な課題を抱えるギフテッドの生徒にとって、学校の環境は必ずしも適したものではないかもしれません。例えば、授業内容に飽きてしまった生徒が、周囲の注意を引こうとして騒いだり、授業を妨害したりすることがあります。しかし、教師はこれを「才能を活かす機会が足りないサイン」とは受け取らず、単なる問題行動とみなしてしまうことが多いのです。その結果、そうした生徒は特別室に隔離されたり、懲罰を受けたりすることになります。保護者は、こうした状況を見て「家庭の方が、子どもの才能を活かしつつ、適切なサポートができる」と判断することがあるのです。
保護者がホームスクーリングを選ぶ背景を理解することは、公教育の改善につながる重要な手がかりとなります。多様なニーズに対応できるようになれば、ホームスクーリングを選択する家庭の負担を軽減できるかもしれません。
(EDICURIA編集部)