
イスラム教国家であるアラブ首長国連邦(以下、UAE)でも、ホームスクーリングに対する関心が高まっています。同国では主に「学習の柔軟性」と「神経発達障害のある学習者へのサポート」というふたつの観点から、家庭学習に関心を示す層が増えているとされます。
UAEでは、2006年時点ですでにホームスクーリングの協会であるdunehaが設立されています。しかし本格的にホームスクーラーが増加し始めたのは、他国と同様にコロナ禍以降のことです。2024年には増加するホームスクーリング需要を支えるため、ラーニングリンクというホームスクーリング専門の企業も設立されました。同社はイギリス人教師であるソフィア·ハンター氏が設立したもので、2025年10月末時点で全国200以上の家庭に学習サービスを提供するまでに事業を拡大しています。
ハンター氏は海外メディアの取材に対し、約1年でホームスクーリングを選択する家庭が大幅に増加したとし、当初は主に神経発達障害のある子どもたちや、より高度な支援を必要とする子どもたちを対象としていたものの、現在ではアスリートやパフォーマーを目指す生徒、あるいは仕事で頻繁に出張する親を持つ子どもたちまで、顧客がより多様化していると説明しています。
ハンター氏は、一人ひとりの子どもに合わせたオーダーメイドカリキュラムを作成できる点がホームスクーリングの大きな魅力だと言います。神経発達障害のある子どもを2人抱える母親でもあるハンター氏は、その魅力に惹かれ業界に飛び込むことを決めたそうです。
なおUAEでは、ホームスクーリング制度に対する政府の対応が進みつつあります。まず、連邦政府機関・Ministry of Education(MOE)では、公立学校への通常入学年齢を超えた生徒を対象に「ホームスクーリング・ストリーム」(homeschooling stream)を設けています。同制度では、生徒は通常の教室に通学せずとも、自宅学習を行いながらMOEが提供する教科書・学習材料を受け取ることができます。そして学期末または学年度末に公的な試験を受験・合格すれば、公立学校卒業と同等の認定が受けられます。
一方で、制度の対象が「グレード7以上」など一定の年齢・学年に限定されている点、小学校低学年への適用は制度上明確ではない点などが課題として挙げられています。加えて、カリキュラムや学習スタイルの選択肢は増えてきたものの、家庭学習を支えるインフラ(教材・指導・進捗管理・社会的交流)について、地域・家庭によりばらつきがあるとの報告があります。加えて、外国人居住者向けの制度理解・運用が必ずしも一様ではなく学校への再入学や大学進学時の扱いが不透明であるという指摘もあります。
とはいえ大きな文脈で制度的枠組みが整備されてきたことは、ホームスクーリングを選択する家庭にとって大きな前進であると評価されており、今後の制度拡充や課題解決に期待が集まっています。
(EDICURIA編集部)
