
不快を避けるための行動は長続きしない
子どもに言うことを聞いてもらいたいため、使ってしまいがちな「脅し言葉」と「脅す育児」について考えてみたいと思います。よく親御さんたちが使いがちな「脅し言葉」としては以下のようなものがあります。
「オバケがくるよ! 鬼さんがくるよ!」
「勝手にしなさい! バイバイ!」
このように「何かをしなかったら(したら)怖いことが起こる」という「脅し言葉」や、子どもを突き放すような言葉を、つい使ってしまう親御さんも多いのではないでしょうか。このような言葉をなぜ使ってはいけないか考えていきましょう。
人が行動をする動機として「快を求める」か「不快を避ける」パターンがあります。持続可能な方法は「快を求める」行動なので、鬼がくるという不快を避けるための行動は長続きしない可能性があります。
子どもがごはんを食べない、着替えてくれないといったとき、「ごはんを食べないと鬼がくるよ!」「着替えないとオバケくるよ!」などと言うのは、子どもに恐怖心を植え付けるという意味でも良くないですが、結局、長続きしないしつけになってしまうので、親の狙いすら達成することができなくなってしまいます。
例えば、おもちゃ売り場で遊びをやめないときや、お菓子売り場で買ってほしいと泣き続けるときなどに、「もう勝手にしなさい! バイバイ!」と言ってしまう方も多いのではないかと思います。
置いて行くフリであっても、お子さんから目を離してしまうことが良くないですが、この「もう勝手にしなさい!」のひと言は子どもにとって良くないと言われています。アメリカの精神医学研究者のグレゴリーが提唱した「ダブルバインド(二重拘束)」と呼ばれる状態です。言い換えれば、矛盾する2つのメッセージを同時に受け取ることで、どちらの指示も受け入れられず、不審を抱いたりストレスを感じる状態に陥るのです。
今回の例の場合、「勝手にしなさい」と言われた子どもが、その言葉の通り遊び続けたり、泣き続けたとき、親は「何してるの! 何回言ったらわかるの!」と怒ります。親の言う通りにしていたのに、怒られてしまう。1つのメッセージの中に矛盾した複数の意味が込められているため、子どもに混乱と強い緊張、過度なストレスを与えてしまうそうです。
ちなみに、個人的には「〇〇しないと〇〇する」というメッセージは、使い方のコツがあると思っています。「おもちゃ遊びをやめないと置いて帰るよ!」と言っても、本当に親が子どもを置いて帰ることはないのです。「やらないこと」を使って子どもを脅す「脅す育児」になってしまいます。
ですが、例えば「遊園地でグズって泣き続けたら、即帰宅するよ!」というように、親の覚悟もいるけれど、実行可能なことであれば使ってもいいのではないでしょうか。これならダブルバインドにはなりません。
遊園地にきて5分でも泣いてグズったら帰る。高い入園料を考えると親としても痛手ですが、「〇〇の場所で、〇〇したらいけないんだ」とわかる時期のお子さんであれば、再発がぐっと減らせます。大事なのは親が嘘をつかずに本気で言葉を伝えること、ダブルバインドはしないということなのではないでしょうか。
「脅す育児」をしないためにはどうすればいい?
では、「脅す育児」をしないために、日ごろの生活の中でできることは何でしょう。親がイライラして子どもを「脅す」状況を作らないためにも、まずは子どもがグズる状況を作らないようにするのがおすすめです。
見通しを早めに教える
遊びを切り上げるとき、できれば遊び始めに、「いつまで」を教えて、帰る時間が近くなったら30分前、15分前、10分前、5分前、3分前といった感じでちょこちょこ「いつまでか」を伝えます。「あと3分だから、これが終わったら帰ろう」と伝え続けることで、スムーズに終われるといいですね。慣れてきたら、子どもに「あと10分だけれど、何を何回したら帰る?」など聞けると、なおスムーズになるでしょう。時計を見る習慣もつきそうですね。
スモールステップでやってもらうことを決める
食事や着替えなどなかなか進まない場合は、自分で進められるところまでは手伝ってあげるのも良いです。親御さんとしては「〇歳だから、これはできるべき」という気持ちもあると思いますが、その日の気分などでもできることは変わってきたりします。大変かもしれませんが、お手伝いをしてあげて、最後のステップは本人にやってもらって「自分でできた!」という気持ちを育ててあげてください。
そもそもぐずりやすいところには子どもを連れて行かない
お菓子売り場やおもちゃ売り場など、ぐずると予想できる場所に子どもを連れて行かないことです。わが家の場合、スーパーにはできる限り子どもと一緒に行かないようにしていました。子どもも、グズって泣いて欲しがったところで、親が「ダメ!」と言ったことは絶対にやってくれないと次第に理解していきます。子どもと行く必要があるときは、例えばスーパーに入る前に「今日、お菓子は買いません」と事前に伝えて行くと、グズらないようになっていきます。
それでもダメだったとき、自分を責めない
いろいろ工夫して、トラブルポイントを避けて行動しても、うまくいかない日もあります。そんなときは「こんな日もあるよね」と気持ちを切り替えて過ごすようにしていました。これだけで、次に子どもがグズったときも脅し言葉を使わないで前向きに子どもたちと向き合えます。
親の子育ての方針をしっかり決めて、それを子どもにも伝えることで、子どものぐずぐずはかなり減らせます。「自分がぐずったり泣けば親が言うことを聞いてくれる」と子どもが学習してしまうと、ぐずりが増えてしまいます。親が生活の主導権をしっかり持って、親も子もお互い気持ちよく過ごせるといいですね。
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- 保田典子
筑波大学医学専門学群卒業。小児科医として国立病院などで診療にあたり、小児循環器を専門に経験を積む。その後、発達障害児を多数担当するようになったことで「子どもの心相談医」の資格を得る。2021年4月、高円寺駅そばに高円寺こどもクリニック開業。