お金をかけずに”自分たちの学校”をつくる―OERで広がる教育のDIY

教育のDIY化
Photo by Joe Ciciarelli

OER(Open Educational Resources)という言葉があります。直訳すると「オープンな教育資源」となりますが、具体的には「世界中の学校や大学、教育団体がインターネット上に公開している誰でも無料で使える教材」を指します。

OERが生まれたきっかけは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のある発表でした。MITは2001年4月4日に、授業ノート、シラバス、教材をインターネットですべて無料公開すると宣言しました。これがのちの「MIT OpenCourseWare」(OCW)となります。

MITの動きは各国の教育関係者を刺激し国際的な潮流が生まれました。そして2002年にUNESCOが教育用のデジタル教材を誰でも自由に使用・再配布・改変もしやすい形で公開する方向性をまとめますが、その際に使われた言葉が「Open Educational Resources」でした。

20年以上が経過した現在、OERは教育インフラとして広がっています。英オープン大学が運営する「OpenLearn」、米「OER Commons」、日本の東京大学が公開している「UTokyo OCW」など、世界中で何十万本もの教材が無料公開されています。理科の実験動画、歴史のスライド、文学作品の教材、数学のシミュレーションなど、あらゆる教材が自由にダウンロードでき印刷・改変も可能です。費用もほとんどかかりません。

そしてここ数年では、OERを活用した「教育のDIY化」の流れも生まれています。すなわち、家庭や地域で自分たちの教材や学校をつくる動きです。教育費の負担、塾通いの過密スケジュール、そして学校に馴染めない子どもたち。そうした現実の中で、「もっと自由なペースで、子どもが興味を持てる内容を学ばせたい」と考える親たちが、OERを活用し独自のカリキュラムを組み始めています。

例えば、理科の時間にはNASAが公開している「Climate Kids」で地球環境を学び、算数は「Khan Academy」で動画授業を視聴します。社会科ではGoogle Arts & Cultureで世界の博物館をバーチャル遠足し、国語は青空文庫で名作を読むという具合です。

さらにOERでつくった教材、プラン、学び方を共有する親たちも登場しています。SlackやDiscordなどオンラインコミュニティでは、ある家庭が「歴史×アニメ」で学ぶ教材をシェアし、別の家庭は「理科×料理」をテーマに小学生向けのオンライン授業を公開するなどのやり取りが散見されます。そして投稿を見た他の親たちがさらに改良版を投稿することで、ゆるくつながる学びのコミュニティが広がっています。

海外では、この流れが「マイクロスクール」という形で定着しています。複数の家庭が協力してOERをもとに小さな学校を立ち上げ、学年や教科にとらわれずに学ぶスタイルです。米国、カナダ、フィンランドなどでは、オンライン上で教師や教材を共有する仕組みも進んでおり、「地域の学校」ではなく「ネット上の学校」に通うケースも増えています。

米国のNational Microschooling Centerは、この小規模学習が全米で広がっているとし、親主導の柔軟なカリキュラム設計を紹介しています。カナダでもourkids.netが、150名以下、年齢混合のコミュニティベースのマイクロスクールが増えていると解説しています。

OERを使ったDIYスクールの教材は英語のものが多く、日本語で利用できる資料はまだ限られています。また家庭では学習記録や進捗管理など保護者の負担が増えることもあります。ただし「やってみたい」という気持ちを出発点にできることが、DIYスクールの最大の魅力です。「お金がないから学べない」ではなく、「調べれば使える教材がある」という感覚が、家庭教育のあり方を変えつつあります。OERはその第一歩を支えるとても身近なツールとして定着しつつあります。

(EDICURIA編集部)