ホームスクーリングの増加で公教育の危機!? "呼び戻しコンサル会社"も登場

公立学校の人員減少
Photo by Nguyen Khanh Ly via unsplash.com

米国の公立学校では、出生数の減少、私立学校のバウチャー制度、ホームスクーリングの急増など複数の要因が相まって「就学危機」が起きているという。その“危機”は公立学校関係者にとって非常に深刻なものであり、オーランド、ニューアーク、メンフィスなどを含む多数の市・町・学区では、地元の公立学校に子供を入学させるよう親たちを説得する専門コンサルタントを雇うケースが増えているという。

ニューヨークタイムスは、このような現実を目の当たりにして公立学区向けのコンサルティング会社という新たなビジネスを立ち上げたブライアン・J・スティーブンス氏のケースを取材している。スティーブンス氏は現在、「Caissa K12」という企業を経営。同社は100以上の学区をクライアントとして抱え急成長を遂げているという。

米国連邦政府のデータによれば、伝統的な公立学校全体の3分の2では、2019年から2023年の間に生徒数が減少した。児童人口が増加している数少ない州のひとつであるフロリダ州の公立学校でさえ、大幅な生徒減少に直面しているとされる。

なおフロリダ州には全米最大の学校バウチャー制度が存在する。バウチャー制度とは、公立学校から私立学校への転校を希望する生徒や、低所得者層、障害を持つ生徒などを対象に、学費の一部または全額を補助する仕組みであり、現在40万人以上の子供たちが公的資金を使用して何らかの私立学校教育の費用を支払っているという。なおフロリダ州では71%の児童が依然として公立学校に通っているが、チャータースクール、ホームスクール、私立学校への入学者の増加に伴い、その割合は急速に減少しているとのデータもある。

米国では学校への資金は生徒一人当たりの予算で配分される。仮に学区の生徒数20万人のうち3000人が失われると、2800万ドルの資金減少につながる可能性がある。そこで各学区は学校の統合・再編を検討しつつ、ホームスクーリングなど他の選択肢に惹かれる家庭の生徒を再び募集するためCaissa K12などコンサルティング会社と提携するのだという。

フロリダ州オレンジ郡では、同社が学区に呼び戻した元生徒1人につき935ドルの報酬が支払われる。この金額は、児童1あたり対する州および地方自治体の公教育予算の約10%に相当する。実際に呼び戻しに成功した例も増えているそうで、コンサルティング会社は多額の収益を得ているとニューヨークタイムスは指摘している。

ここ数年ではホームスクーリングを実践する家庭や児童が世界各国で増加している。その変化は、公教育の在り方にも大きな変化をもたらしているようだ。そして、その勢いは公教育の危機を招くほどに大きくなっており、コンサルティング会社の登場など新たな動きに繋がっている。日本ではまだホームスクーリングそのものが根付いていないため実感が湧きにくいが、海外の事例からは教育に対する現実や興味深い示唆を得ることができるだろう。

(EDICURIA編集部)