
子どもの発達には段階があり、そのスピードは一人ひとり異なります。以前の記事「焦らず向き合う子どもの成長」では、子どもの成長を見つめる視点の一つとして発達理論を2つご紹介しました。
今回はその中でも、子どもの「社会的な成長」に焦点を当てた心理学理論、エリクソンの「ライフサイクル理論」をわかりやすく解説します。子どもの姿に、今どんな発達課題があるのかを見立てるヒントとして、ぜひご活用ください。
エリクソンの理論 ― 他者との関わりが「自分」を育てる
エリクソンは、アイデンティティ(自分らしさ)というテーマと深く向き合い続けた心理学者です。実父を知らずに育ち、自らのルーツを探し続けた経験から、「自分とは何か?」という問いに向き合わざるを得なかった人物でもあります。
そんな彼が提唱したのが、人の一生を通した発達段階=ライフサイクル理論です。この理論では、人は生まれてから年老いるまで、8つの発達段階を順番に経験していくとされます。それぞれの段階には、乗り越えるべき発達課題があり、前の段階を飛ばすことはできないとエリクソンは言います。
ここでは特に、乳児期から青年期までの子どもに関わる4つの段階をご紹介します。
子どもの発達課題 ― 乳児期から青年期まで
乳児期:「基本的信頼」
泣いたときに誰かが応えてくれる。空腹を満たしてもらえる――。
そんな日々の体験を通じて、「人を信じていいんだ」という感覚=基本的信頼が育ちます。これは後の人間関係の土台になる、とても大切な力です。
幼児期:「自律性」
「じぶんで!」と言い始めるこの時期は、自分でやってみたい気持ちが強くなります。
たとえ失敗しても、何度も挑戦しながら自分をコントロールする力=自律性を育てていきます。うまくコントロールできない時もありますが、大人は根気よく、「いつかできるようになる」ことを伝え、支える役割を担います。
児童期:「勤勉性」
仲間と一緒に学び合い、刺激を受けながら「自分にできること」と見つけはじめる時期。 一方で、他人と自分を比べて劣等感を抱きやすくもなります。 この時期の土台となるのは、乳児期から育まれてきた「人への信頼」や「共感する力」です。
青年期:「自己同一性(アイデンティティ)」
「自分ってどんな人間?」「将来どうなりたい?」
内省と他者との対話を通じて、自分らしさ=自己同一性を確立していく時期です。他者からの評価と自分の価値観をすり合わせ、少しずつ自分を客観的に捉えられるようになっていきます。
理論だけ聞くと少し難しそうですが、実は子どもの日常には発達段階のサインがたくさん見られます。
ー自分でズボンをはきたがり、手を出すと癇癪を起こす(幼児期の自律性)
ー「なんでもできるよ!」と言っていた子が、「苦手かも…」と自信をなくす(児童期の劣等感)
ー泣いていたのに、数分後にはケロッとしてテレビを見ている(自己同一性の未獲得)
ー鏡で寝癖を気にし始める(他者の視点を意識する。自己同一性の獲得途中)
どれも、「社会の中の自分」を育てている証しなのです。
不登校からの再出発 ― わが家の気づき
私自身、子どもが不登校になったことをきっかけに、エリクソンの理論と出会いました。当時の私は、「宿題終わった?」「洗濯物出した?」といった指示と確認ばかりの会話を繰り返していました。子どもからはほとんど話してくれず、「お腹が痛い」「学校に行きたくない」と、申し訳なさそうに伝えてくるような状態。
そこで、スクールカウンセラーの先生に相談し、まずは関わり方を見直すことから始めました。子どもの「好きなこと」に目を向け、YouTubeを一緒に観たり、推し活を一緒に楽しんでみたり。
そんな時間を重ねる中で、少しずつ笑顔が戻り、「やってみたいこと」が言葉に出るようになってきたのです。決して短い時間ではありませんでしたが、信頼の土台を築くことができたことは、今後の親子関係にかけがえのない財産になったと感じています。
エリクソンのライフサイクル理論は、子どもの「いま」を理解する手がかりになります。
「この子はいま、どんな段階にいるんだろう?」
そんなふうに見立てができるだけで、成長を長期的に捉えたり、進歩を発見しやすくなったりと、少し余裕を持って子どもに向き合えるでしょう。
そしてもし、迷いや不安を感じたときには、専門家に相談することもぜひ選択肢に加えてください。子どもの発達に寄り添う、心強いサポーターになってくれるでしょう。
▼参考文献
「子どもの心が見えてくる エリクソンに学ぶ」(佐々木正美著・KTC中央出版)
「E.H.エリクソンの人生とアイデンティティ理論」(中野明徳著・別府大学大学院紀要 22 p31-50, 2020-03)
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- 佐藤けいこ
会社員として働きながら、二児の母として子育て中。大学では生活科学(生理学領域)を学び、現在は通信制大学で心理学を専攻。2025年夏に卒業予定。自身の不調や子どもの行き渋りをきっかけに、「支援と家庭のつながり」に関心を持ち、家庭での関わりと心理学の理論をつなげる実践と探究を重ねている。理論と実体験の両面から、子育てや学びについて考える記事を発信している。