焦らず向き合う子どもの成長 ~発達段階から現状をながめてみる

子供の発達段階
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「学校に行きたくない」と小学生の子どもが言い出した。「せめて家では勉強を」と思うけれど、動画ばかり見て一日が終わってしまう…。そんな状況に戸惑い、どう関われば良いか悩んでいる保護者の方も多いのではないでしょうか。

もしかすると、その悩みは「みんなと同じようにできないのはどうして?」という焦りや不安からきていないでしょうか。それは、子ども自身の困りごとというより、大人側の不安かもしれません。そんな時は、周囲と比べる前にまずは目の前の子どもの現状を観察してみるのはどうでしょう。例えば、今どんな発達段階にいて何に取り組もうとしているのか目を配ってみましょう。これは実は企業の経営戦略づくりと似ています。企業もまず自社の現在地を把握し、環境を分析し、どこを目指すかを戦略に落とし込みます。子どもの成長への関わりもまずは「今ここ」を知るところから始まるのです。

発達には段階がある―2つの理論から見てみる

心理学では、子どもの発達に関してさまざまな理論があります。今回は、なかでも代表的な2つの理論をご紹介します。1つ目は、エリクソンの心理社会的な発達理論です。アイデンティティという考えを提唱したことで有名なエリクソンは、子どもが社会的な関係の中で課題を乗り越えながら成長していく過程を8つの段階に分けました。そして、各段階ごとに獲得できる課題と、それに対する危機があるとしています。

例えば小学生(目安年齢6~12歳)は「勤勉性 」を獲得する課題に直面するとされています。周囲のルールを学んだり、成功に向けた努力に勤しむ時期です。「できた!」という達成感を積み重ねられると、自己効力感が育ちます。一方で失敗が続いたり、他者と比較されてばかりだと「自分はダメなんだ」と劣等感を感じてしまうこともあります。

もうひとつは、ジャン・ピアジェによる認知発達理論です。こちらは子どもの物事の理解がどのように発達していくかを示したものです。小学校低学年は「具体的操作期」と呼ばれ、目に見えるもの・触れるものを通じて理解する段階です。おはじきやサイコロ、図などの具体物を使うことで、算数の概念などがぐっと理解しやすくなります。高学年になると「形式的操作期」へ移行し、抽象的な考え方(たとえば分数の計算や文章問題の読解など)が徐々に可能になります。

子どもの言動から“今”を読み取る

「算数の文章題が全然できない」と子どもと一緒に、実際におはじきで数を動かしながら考えてみると、するすると答えを出せた、ということがありました。これはまさに、まだ“抽象的な操作”には慣れていないけれど、具体的な材料があれば理解できるという発達段階にいることを表しています。

また「わたしって全然だめ」と自信をなくしてしまうときは、周囲との比較が「できるようになった」段階にきたのかもしれません。そんな時は「ここまでできるようになったよね」「前はできなかったのに、今はチャレンジできてるよね」と、成長のプロセスを時系列でふり返り、自分の成長に目を向けるように働きかけることができます。

このように「なんでできないの?」と不安になって責める前に、まずはその子の今の課題がどこにあるのかを探ってみると、関わり方もきっと変わってくるはずです。

大事にしたいのは段階にあわせたコミュニケーション

エリクソンやピアジェの理論では発達段階の目安として年齢が示されていますが、本当に大事なのは「年齢」ではなく「段階」です。たとえ学年が上がっていても、ある段階でつまずいているように見えたら、その段階に合わせた関わり方をすることが子どもとの良い関係づくりにつながります。

子どもの表情、言葉、しぐさを「どんな発達段階にいるのかな?」と考えながら観察することで、これまで考えていた問題とは別の課題が見えてくるかもしれません。「みんな」と比べて見えてくる問題ではなく、子どもが抱える発達段階における困りごとを見つけ出すことが「今できること」「今必要なサポート」を見極める第一歩になるでしょう。焦らず、子どものできていることや困っていることを一緒に捉えていきましょう。それが未来への小さな土台になっていきます。

(参考書籍)
「面白いほどよくわかる!臨床心理学」(下山晴彦著・西東社)
「心理学と心理的支援」(一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟・中央法規出版)
「よくわかる発達心理学第2版」(無藤隆、岡本祐子、大坪治彦編・ミネルヴァ書房)
改訂版「たのしく学べる最新教育心理学ー教職に関わるすべての人にー」(櫻井茂男編・図書文化社)

  • 佐藤けいこ
    EDICURIA編集部

会社員として働きながら、二児の母として子育て中。大学では生活科学(生理学領域)を学び、現在は通信制大学で心理学を専攻。2025年夏に卒業予定。自身の不調や子どもの行き渋りをきっかけに、「支援と家庭のつながり」に関心を持ち、家庭での関わりと心理学の理論をつなげる実践と探究を重ねている。理論と実体験の両面から、子育てや学びについて考える記事を発信している。