「子どもの才能を伸ばしたい」と思う親御さんは多いでしょう。しかし、そもそも子どもとは「成長したい生物」だという視点を持つことはとても大切です。医学的にも、子どもはただ「小さな大人」ではなく、独自の成長発達を続ける特別な存在だとされています。大人はその成長力に到底かないません。
たとえば生後間もない子どもが広範囲の脳梗塞を起こしても、残された脳を活用して驚くほどの回復を遂げることがあります。大人ではほとんど不可能なことを、子どもは成し遂げる力を持っています。子どもは自然と成長し、環境に適応しながら新しいスキルを身につける「成長の天才」なのです。
子どもを見ていると、放っておいてもどんどん成長していくことに驚かされます。そのため、才能を伸ばすには「放っておく」のが一番とさえ言えるでしょう。実際、子どもは自分の興味や関心に基づいて勝手に学び、上達していくものです。
しかし「本当にそれでいいの?」と思うかもしれません。実は、この「放っておく」というのは意外と難しいのです。親は子どものやりたいことにストップをかけてしまう場面が多くあります。
子どものやりたいことに「ダメ」と言ってしまう瞬間
赤ちゃんが何かを口に入れようとしたら「ダメ!」と言っていませんか?公園で砂まみれになりながら遊んでいる子どもに「もうやめたら?」と声をかけたことはありませんか?ゲームばかりしている子どもに「いい加減にしなさい」と言ったことは?
なぜ「ダメ」と言うのかを振り返ってみると、さまざまなケースや理由があります。赤ちゃんがペットボトルのキャップを口に入れるのは危険だからダメ。砂場遊びは帰宅時間が迫っているからやめてほしい。ゲームは目に悪いし、勉強の邪魔になるからやめさせたい。親としては当然の判断ですが、それらのタイミングに子どもの成長ポイントが潜んでいる場合があるのです。
「ダメ」の背景を理解する:子どもの成長ポイントを見つける
子どもの「やりたいこと」をよく観察してみると、そこに成長のヒントが隠れていることがあります。
赤ちゃんが何かを口に運ぶのは「物を手でつかみ、目的の場所へ運ぶ」というスキルを学びたいからかもしれません。砂場での遊びは「水の感触を楽しみたい」「濡れた手で土を触るとどうなるかを学びたい」という探究心からきています。ゲームであれば、戦略的に考えたり、問題解決能力を養いたいという興味が隠れているかもしれません。
しっかりとした観察を通じて「何がその子の成長ポイントなのか」を細かく見極めることが大切です。その上で子どもが安心して探求できる環境を用意してあげましょう。
「ダメ」と完全に言わないのは難しいですが、子どもの成長を促す方法を考えることはできます。
危険を避けつつ探求を支えるにはどうすればよいでしょう。赤ちゃんがペットボトルのキャップを口に入れようとする場合、窒息の危険があるのでそのままにするわけにはいきません。しかし色々な質感の安全なおもちゃを用意し、「手で持って口に運ぶ体験」を代わりに楽しませてあげることができます。
家庭でできる遊びを増やすこともアイデアのひとつです。砂遊びや粘土遊びなど、子どもが興味を持ちそうな遊び道具を準備します。この際、子どもがどれだけ集中して遊ぶかを観察することで集中力の伸びも実感できます。
ゲームや趣味に熱中する子どもに対しては、親もその世界に参加してみると良いでしょう。戦略ゲームを通じて子どもと一緒に考える時間を作ることで、親子の関係が深まると同時に、子どもの思考力を育むことができます。
子どもの行動を観察し「この子は今、何を学びたがっているのか?」を考える習慣を持ちましょう。ただの「ダメ」で終わらせず、その子の興味を活かした体験を提供していきましょう。子どもの才能を伸ばすためには、まず「子どもが自分で成長していく生物である」という前提を理解することが大切です。その上で、親としては「ダメ」と言う理由を深く考え、その裏にある成長ポイントを見つけ出しましょう。
「今日言った『ダメ』の中に、子どもの成長ポイントが隠れている」――この視点を持つだけで、親子の関係はより豊かになり、子どもの才能は自然と育まれていくはずです。
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- 保田典子
筑波大学医学専門学群卒業。小児科医として国立病院などで診療にあたり、小児循環器を専門に経験を積む。その後、発達障害児を多数担当するようになったことで「子どもの心相談医」の資格を得る。2021年4月、高円寺駅そばに高円寺こどもクリニック開業。