
健診の目的は「見逃し」を防ぐこと
「子供の健診で精密検査をすすめられ傷ついてしまった」というお話をよく耳にします。読者の皆さんがそのような経験をしてしまう背景には、健診制度の本来の意義が十分に説明されないまま健診が進められている可能性があります。
健診はお子さんの発達の遅れや病気を早期に発見し、必要な支援を行うために設けられた事業です。仮に問題が見つかった場合でも早期に対応することで負担を軽減し、お子さんやご家族にとってより良い状況を作るべくサポートすることを目的としています。
健診の現場では「見逃し」を防ぐことが最も重要視されています。少しでも可能性があれば広くピックアップし、問題を見過ごさないよう努めています。健診会場だけで確定的な診断を下すのは難しいため、「精密検査を受けましょう」という形で次のステップを提案します。その先の病院では「問題ありません」「経過を見ていきましょう」といった、より具体的な対応が可能になります。
健診結果を受けたときに忘れてはいけないこと
健診で引っかかったからといって、必ずしもお子さんに異常がある訳ではありません。また仮に発達の遅れや病気があったとしても、早期に発見することで対処できることが増えるのも事実です。健診は「問題がないことを確認するため」ではなく「必要な支援を見逃さないため」に行われるものです。
大切なのは、健診の結果がどうであれお子さんが今までと何も変わらない「かけがえのない存在」であるということです。また誰も皆さんの子育てを否定しません。お子さんの健診結果は、親御さんの愛情や努力と関係なく医学的な判断によるものです。
もし健診で精密検査をすすめられた場合、不安に感じるのは当然です。しかし、その不安を抱えたままにせず、次の行動に移ることが重要です。「指定された病院で予約が取れない」「どこに相談すれば良いか分からない」という場合は、まずかかりつけの医師に相談してみてください。早めに専門家の助けを借りることで不安が軽減されはずです。
健診はお子さんの未来をより良いものにするための手段です。結果がどうであれ、お子さんの素晴らしさや愛おしさに変わりはありません。また、健診で見つかった小さな兆候が、後々大きな安心へとつながることがあります。
不安な気持ちに押しつぶされそうなときは、ひとりで抱え込まず周囲のサポートを活用してください。大事なのは、お子さんの今の姿を受け入れ、成長を温かく見守ることです。健診はそのためのひとつのステップに過ぎません。
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- 保田典子
筑波大学医学専門学群卒業。小児科医として国立病院などで診療にあたり、小児循環器を専門に経験を積む。その後、発達障害児を多数担当するようになったことで「子どもの心相談医」の資格を得る。2021年4月、高円寺駅そばに高円寺こどもクリニック開業。