若者や子どもたちがSNSで生み出す新たな教育のカタチ

SNSとホームスクーリング
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スマホの画面を指先でなぞるたび、淡く光る短尺動画やコメント欄のフロー。普段、私たちが何気なく見ているSNSが、実は「学びの場」になり始めています。学校や教室という枠を飛び超え、タイムラインやハッシュタグ、バーチャルな仲間とのやりとりのプロセスから学びを得る。1990年代後半〜2000年代生まれのZ世代は、そんな変化を率先して受け入れ、活用を始めています。

かつてSNSは「遊び」「発信」、あるいは「ネットワーキング」のツールとして利用されてきました。「SNSを見るなんて時間の無駄」。そんな感覚を持つ親世代も多いかもしれません。しかし昨今では、「学び」を共有するツールとしての一面も獲得しつつあります。

例えばTikTokでは「#StudyTok」などのタグが定着し、勉強法やノート術が共有されています。また、ライブ配信による“自習室動画”の中からは、再生数が数百万単位を記録するパワーコンテンツも登場しています。

また過去には「Study Together」というDiscordサーバーが、世界中の学生が一緒にオンラインで自習するための場として爆発的に拡大しました。創設から15 ヶ月で15 万人以上のメンバーを集め、ピーク時には1000人以上が同時にカメラ・チャット・タイマー付きで勉強していたと報告されています。例えば、ある月には月間トップのメンバーが「520.7 時間」をこの場で勉強したという記録もあります。この仕組みは「他の人も頑張っている」「自分も今この時間、キーボードを叩いている」という連帯感を生み、従来の孤独な自宅学習とは異なる学びの空間を提供しました。

このような現象は、「学びの場の分散化」や「学びの主導権の移行」を象徴する動きとして教育関係者の注目を集めています。特筆すべきは、この潮流が単なる補習や「遊びながら学ぶ」というレベルになく、新たな教育基盤として機能し始めている点です。

教育研究の世界ではすでに「ピア・ラーニング」(同世代から学び合う学習スタイル)や「コネクテッド・ラーニング」(個人の興味・仲間・機会が結びつく学び)という概念が提示されており、SNSはその実践の舞台になりつつあります。自分と似た境遇・興味を持つユーザーの投稿を見ることで、「自分もやってみよう」と思える。そんな共感と即時性が、学校や塾では得られない“リアルな学び”を生み出しています。

一方で、SNSの利用には負の側面も多く存在します。偽・誤情報の拡散や、インフルエンサーによる教育商材ビジネスの氾濫などは、常にリテラシーが問われる問題です。
しかし逆説的に言えば、そうした情報の海を自ら航海し、取捨選択し、仲間と議論しながら知を再構築する行為こそが、Z世代の“学び方”なのかもしれません。教室で与えられる知識だけに頼らず、自分のタイムラインを教科書に変える力。SNSはその訓練の場にもなっています。

この新たな潮流は、既存の教育にひとつの転換をもたらしています。それは「知識の提供者と享受者」という関係性の再構築です。これまでは親や教師が知識の提供者でした。しかし今では、誰もが提供者にも享受者にもなれる可能性があります。

家庭で、リビングで、通学電車のなかで、子どもや若者たちは画面に向かって知識を吸収し、学びのループを生み出しています。そしてそのループは、教室の閉ざされた空間よりも広く柔軟でリアルです。学びはもはや「どこ」ではなく「どう」行われるかが問われており、SNSはその「どう」の最前線にあります。

「無駄な時間」とされてきたSNSサーフィンが、ホームスクーリングにおいても最先端の学びの転換の場になる。そんな未来が、もう静かに始まっているのかもしれません。

(EDICURIA編集部)