【書籍紹介】『園芸少年』その時はやってくる。花と少年と成長と。

わかりたい。でも、わからない――だからこそ、想像する力を育てる時間を本やドラマから。

ホームスクーリングをしていると、子どもと向き合う時間が自然と増えます。何気ない子どもの行動やふとした言葉が、自分の想像の枠を超えてくることはありませんか?また我が子をもっと理解したいと思えば思うほど「本当にわかっているのだろうか」と不安になる瞬間も。

私たちは、どうしても自分の知識や経験これまでの常識の中で物事を解釈しがちです。しかし、子どもたちはそれぞれの感受性や発達のスピードで私たちの想像の及ばない世界を生きています。

そんなときに必要なのは「理解する」ことではなく「想像する」ことかもしれません。本やドラマは、他者の世界を疑似体験できるツールになります。

ピックアップする書籍『園芸少年』

今回ご紹介するのは『園芸少年』(魚住直子・作/講談社)です。

本書は高校に入学したばかりの3人の男子生徒が、ひょんなことから園芸部として活動することになり、その中で少しずつ互いの違いに触れ、自分自身を見つめ直していく物語です。

登場人物のひとりは保健室登校をしており「他の生徒とはなるべく顔を合わせないように」という条件付きで入学してきます。そんな3人は、園芸部に入るつもりが元々なかったのに、いつの間にか入部し、集い、コンテスト入賞を果たすまでになる。そんな数奇な巡り合わせで出会った3人でしたが、高校に対して別々の期待をもって入学してきていました。

一体どんな事情を抱えていたのか――

高校入学までの経緯は三者三様。これまで交わることのなかった3人が出会い、心が少しずつ動き始めていきます。高校は、近所だからではなく、自分で意図を持って選ぶ場所。それでも期待と不安が入り混じる独特の空気は消えません。

その空気感は小学校入学のそれにも少し似ています。ただ決定的に違うのは「その学校を自分で選んだかどうか」。大きな変化に向けて、覚悟があったかどうかです。

この物語は高校生の話ですが、小学校や中学校への進学でも子どもたちは似た衝撃を受けています。書籍を通じ、節目に立つ子どもの心の動きに思いを馳せられるでしょう。またどうして3人はその高校にきたのか。その心情が解き明かされるストーリーは、これから大きくなるお子さんを持つ保護者にもきっと参考になるでしょう。

著者・魚住直子さんの魅力

作者の魚住直子さんは大学で心理学を学んだ経歴をもち、登場人物の内面を丁寧にすくい上げる繊細な心理描写が魅力です。また、静かであたたかく見守るような文体は、読む人の気持ちにそっと寄り添ってくれます。

深く考えすぎて疲れてしまった時、「〜すべき」という考えが強くなっている時、この本に触れることで新しい視点や小さな気づきが得られるかもしれません。

最後に作中から心に残る一文を紹介して記事を締めくくりたいと思います。この作品の根っこに流れている優しさや信頼のようなものを、私はこの一文に感じました。

「こいつ、ひ弱じゃないんだ。といって、絶対不屈の強者でもない。咲くときになれば自然に咲くんだ」

気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。

  • 佐藤けいこ
    EDICURIA編集部

会社員として働きながら、二児の母として子育て中。大学では生活科学(生理学領域)を学び、現在は通信制大学で心理学を専攻。2025年夏に卒業予定。自身の不調や子どもの行き渋りをきっかけに、「支援と家庭のつながり」に関心を持ち、家庭での関わりと心理学の理論をつなげる実践と探究を重ねている。理論と実体験の両面から、子育てや学びについて考える記事を発信している。