目の前の子どもの気持ちが、するすると手のひらからこぼれ落ちていくように感じるとき。
そんな時こそ、想像する力が必要になります。
ただ、その想像は、自分の経験や価値観の枠を超えることはありません。だからこそ、本やドラマを通して、想像力の糧を増やしてみませんか。
今回ご紹介する本
『あの子の秘密』(村上雅郁・作/フレーベル館)

秘密になったわけがある
「秘密」と聞くと、どんなイメージを持ちますか。
内緒、オフレコ、隠し事―― これらには「意図的に知られないようにする」ニュアンスがありますが、隠そうとしていなくても人知れず起きていることは無数にあります。
心のうごきも、その一つでしょう。
この本は、子どもたちの心のうごきと、そこに至るまでの道のりに焦点を当てた物語です。
転校生の明來(あくる)が出会ったのは、友達はいらないと言い切る小夜子。社交的な明來と、距離を置く小夜子――対照的な二人の間には深い溝がありました。ところが、二人はそれぞれに秘密を抱えていることを知り、やがてその秘密に二人で向き合っていくのです。
きっかけは小夜子の大事な黒猫がいなくなったこと。はじめは明來をぞんざいにしていた小夜子ですが、黒猫を探し出すために、明來に協力するように願い出ます。こうして二人の旅が始まります。果たして、黒猫を見つけ出すことはできるのか――
登場人物は小学生です。友達同士では繊細な感受性とストレートな物言いがぶつかり合います。一方、家庭では大人の言葉をまっすぐに受け止める、そんな年代です。小夜子と明來も、言葉に翻弄され、一度は深い溝ができました。二人の秘密が生まれたのも、言葉の受け止め方のすれ違いが原因でした。
言いたくても言えなかったこと。 言わないほうがいいと思ったこと。 成長するにつれ、飲み込んできた言葉は増えていったはず。 飲み込まれた言葉は、何をもたらしたのでしょうか。
この本は、その問いに一つの答えを示してくれるかもしれません。
そして、本はもう一つ問いを投げかけてきます。
「心は目に見えないし、さわることもできない。できたとしても、それはただの『感覚』に過ぎないから、実際に心が存在するかどうか、確かめることは原理的に不可能だ。だからこそ、どんなものにも心は宿りうる。『ある』ということを確かめられないゆえに、心が『ない』ということもまた、証明できない。」
私たちは何に心を見てとるのでしょうか。 子どもたちは、何に心を宿すのでしょうか。
子どもが心を宿すもの、言葉の受け取り方。
この本は、大人になって忘れてしまったことを、思い出させるきっかけになってくれるでしょう。
カシワイさんのイラストからも物語が伝わり、この本の魅力をいっそう深めています。
気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。
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- 佐藤けいこ
会社員として働きながら、二児の母として子育て中。大学では生活科学(生理学領域)を学び、現在は通信制大学で心理学を専攻。2025年夏に卒業予定。自身の不調や子どもの行き渋りをきっかけに、「支援と家庭のつながり」に関心を持ち、家庭での関わりと心理学の理論をつなげる実践と探究を重ねている。理論と実体験の両面から、子育てや学びについて考える記事を発信している。
