
近年、世界各地のみならず日本でも記録的な猛暑や豪雨など異常気象が珍しくなくなり、気温の極端な変化が進んでいます。気象庁の統計でも、猛暑日などの発生回数が長期的に増加していることが示されています。こうした気候変動の影響が、健康やインフラだけでなく、子どもの学びや学校生活にも波及しているという研究が発表されました。
経済産業研究所(RIETI)のディスカッション・ペーパー「極端な気温が不登校にあたえる影響」は、極端な気温が小中学生の不登校に与える影響を、埼玉県の公立小・中学校に在籍する児童生徒のパネルデータで検証した研究です。気温と不登校の関係に焦点を当てつつ、学力、非認知能力、いじめ、暴力行為といった関連指標もあわせて包括的に分析しています。
研究の中心的な結果は、前年に極端な高温日・低温日が増えるほど、学校・学年あたりの不登校者数が統計的に有意に増えるという点です。具体的には、最高気温が32℃を超える日が1日増えると学校・学年あたり不登校者数が0.0150人増加し、最高気温が8℃を下回る日が1日増えると0.0182人増加すると報告しています。学校数(小学校約800校、中学校約300校)を踏まえると、前年より極端な高温日が1日増えるだけで、県全体では約100人規模の不登校増加に相当し得る、という試算も提示されています。
興味深いのは「どんな理由の欠席が増えているか」を分解している点です。極端な気温による不登校の増加は、病気や事故などによる欠席ではなく、「無気力・不安」を主因とする不登校に集中していたとされます。さらに、いじめや暴力行為には気温の有意な影響が観察されなかった、という結果も示されています。著者らは、極端な気温が身体的な健康面よりも心理的・精神的な健康に影響し、防衛的・回避的行動として不登校が増える可能性を示唆しています。
影響の出方には偏り(異質性)もあります。中学生は小学生の約5倍の影響を受けるとされ、思春期の心理的脆弱性などが気候ストレスへの感受性を高めている可能性が述べられています。また、就学援助率の高い学校ほど影響が大きいという結果も示され、社会経済的な困難がリスクを増幅し得ることが示唆されています。
一方で、学校設備が緩衝材になり得る点も具体的に検討されています。学校に設置された空調(冷房)が、特に極端な高温による負の効果を60〜70%程度相殺する効果がある、という推定結果が示されています。つまり、気温ストレスを下げる環境整備が、不登校の増加を抑える可能性がある、という政策的含意につながります。
学力や非認知能力については、先行研究で気温の負の影響が報告されている一方、本研究のデータでは「はっきりとした効果は観察されなかった」とまとめられています。ただし著者らは、成績がもともと低い傾向にある不登校の児童生徒ほど学力調査や調査に参加しにくく、結果として受検者だけで推定すると、気温が学力に与える不利な影響が過小評価され得るという選択バイアスの可能性を指摘しています。
研究の限界としては、分析対象が埼玉県のデータに限られるため他地域への一般化には注意が必要であること、長期的影響の追跡には追加の追跡調査が必要であることが挙げられています。そのうえで、気候変動で極端な気温の頻度が増えるなか、学校施設の環境改善は単なる快適性ではなく教育機会の確保・格差是正にも関わる課題であり、空調や断熱などのハード対策に加えて、極端な気温時の心理的サポート体制といったソフト対策も重要だという方向性が示されています。
(EDICURIA編集部)
