
気がつけば子どもは親以外の人からいろんなことを教わっている。そんな経験は多くの親にとって少なくないのではないでしょうか。特に小学校に上がると、言葉づかいを始め家の外(動画なども含む)から様々なことを吸収してくる子供が増えます。
外の世界として代表的なのは学校です。子どもたちは学校で学ぶことの目的をどう捉えているでしょうか。
令和4年度の文部科学省の調査では、子どもたちは友達と学ぶこと、つまり「協同的な学び」に学校で学ぶことの目的を見出していることがわかりました。(「学校での学びを子どもはどう感じてる? 家庭学習につながるヒント」という記事にまとめています。こちらもぜひご覧ください。)
この「協同で学ぶ」という考えに注目していた心理学者がいます。ロシアの教育心理学者レフ・ヴィゴツキーです。
彼は「最近接発達領域(ZPD: Zone of Proximal Development)」という理論を提唱しています。
最近接発達領域とは、現時点で一人ではできないが手助けがあればできる領域のことです。この領域の課題に取り組むことで効果的な学習ができるという考えです。つまり、学習に効果的なのは「ちょっと先の未来にできること」に照準を合わせることです。そして、その学びを促すのは、すでにその課題をできる人や一緒に試行錯誤できる人との協同的な学びです。
今回はこの理論をもとに、家での親の関わり方を考えてみたいと思います。
協同的な学びは身近にある
この理論の実例を、家庭でもみてとることができます。好きなことに関して、子どもは自然に「できる人」を見つけ、真似をし、学んではいないでしょうか?
例え、イラスト好きの子は描き方を上手な人から学び、真似し、自分なりの表現を見つけます。また電車好きの子は、本や動画から知識を吸収し、やがて人に教えられるほど詳しくなります。
いずれのケースも、周囲のモデルから知識とその使い方を学び、それをもとに自分で考えて試してみる(アウトプットする)ことで、効果的に学習ができます。
趣味の学びと同じように勉強も行えます。「知識をどう使うか」を示せる先導的なロールモデルと学び、試行錯誤することで、実際に使える知識が身についていきます。
勉強における親の関わり方のヒント
ヴィゴツキーの理論を当てはめると、家でも親が「先導的な人」の役割を担うことで、協同的学びを展開することができることになります。実際に知識を教える以外にも学び方を一緒に考えることも大事な関わり方のひとつです。言い換えれば「一緒に試行錯誤する人」の役割を親が担うことが重要となりそうです。
好きなことを夢中で覚える様子を引き合いに出しながら「あなたは学べる力を持っているよ」と伝えたり、 一緒に問題を解いてみて解法や工夫をシェアしあう。あるいは、教材や学習ツールをどんな観点を持って選んできたか、親の経験をつたえ一緒に選んでみても良いでしょう。
とはいえ、親がすべてを担う必要はありません。家庭学習においては、実際の学習内容は動画や、フリースクールをはじめとした教育の場、専門家の力を借りることもできます。
大切なのは、親が子どもを真剣に応援して、共に学びを深めたいと思うこと。学びはいつも、人との関わりの中で広がっていきます。家庭という小さな学びの場から、子どもの未来につながる「協同的学び」を育んでいきたいですね。
■参考図書
柴田義松 『ヴィゴツキー入門 (寺子屋新書)』 子どもの未来社 2006
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- 佐藤けいこ
会社員として働きながら、二児の母として子育て中。大学では生活科学(生理学領域)を学び、現在は通信制大学で心理学を専攻。2025年夏に卒業予定。自身の不調や子どもの行き渋りをきっかけに、「支援と家庭のつながり」に関心を持ち、家庭での関わりと心理学の理論をつなげる実践と探究を重ねている。理論と実体験の両面から、子育てや学びについて考える記事を発信している。
