IQは本当に大事?幼児教育の選択肢を考える際のポイントとは

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幼児教育の広告では「子どものIQが劇的に向上!」などといった魅力的なキャッチフレーズが並んでいます。しかし、このような広告に使われるIQの数字は、実際の医学的な知能検査の基準と同じものなのでしょうか?今回は、IQの基本的な仕組みや幼児教育の本質について考えてみたいと思います。

医学的に認められた知能検査

現在、子どもの発達や知能を測定するために用いられている主要な検査には、以下のようなものがあります。

  • WISC-IV(ウィスクフォー)
  • 田中ビネー式知能検査
  • KABC-II(カウフマン式心理教育アセスメントバッテリー)

これらの検査は、心理学や教育学の分野で広く認められており、子どもの発達を科学的に評価するための信頼性の高い方法です。これらの検査では知能指数(IQ)も算出されます。たとえばWISC-IVは臨床や教育現場でよく用いられる検査ですが、同検査で出るIQの上限値はおおよそ140台とされています。一部の例外を除いて、150や160以上のスコアは出ることがありません。

一方、幼児教育の広告では「IQ160以上」「IQ180」「200」など、医学的な検査では見られないような高い数字が使われていることがあります。実はこれらの数字は、医学的な知能検査によるものではない可能性が高いです。具体的にどのような検査を使用しているのか明記されていない場合が多く、一般的な医学的基準とは異なる独自のスコアリング方法が用いられているのではないかと推測されます。

IQの仕組みとその意味

IQ(知能指数)は、以下のような公式で計算されます。

    精神年齢
IQ = ———————————
     実年齢

この公式を用いると、例えば実年齢が1歳0か月の子どもが、精神年齢で2歳0か月相当のことができれば、IQは200という高いスコアになります。しかし年齢が上がるにつれて、このような極端なスコアは現実的に出にくくなります。20歳の人が精神年齢40歳と評価されることは通常ありません。IQは特定の時期や状況において一時的に高くなることもありますが、それがそのまま長期的な能力を表しているわけではないのです。

では「IQを伸ばす」ことが幼児教育の最終目的なのでしょうか。答えは「NO」です。近年、幼児教育では「非認知能力」を伸ばすことの重要性が注目されています。非認知能力とは、具体的な知識や学力ではなく以下のようなスキルや性格特性を指します。

―自己制御能力(感情をコントロールする力)
―社交性(他人と良い関係を築く力)
―好奇心(新しいことを学ぶ意欲)
―忍耐力(目標に向かって努力し続ける力)

これらの能力は、子どもが将来的に成功するために非常に重要であることが多くの研究で示されています。

幼児教育の選択肢を考える際のポイント

幼児教育を選ぶ際には、以下のような観点を意識すると良いでしょう。

1.目的を明確にする

幼児教育を通じて何を目指すのかを考えます。IQを一時的に伸ばすことではなく、子どもの好奇心や自己制御能力を育むことに重点を置くべきです。

2.科学的根拠のあるプログラムを選ぶ

広告に惑わされず、プログラムが信頼性のある研究に基づいているかを確認しましょう。

3.子どもの個性を尊重する

すべての子どもが同じ方法で学ぶわけではありません。一人ひとりの特性や興味に合った教育方法を選ぶことが大切です。

4.親も一緒に学ぶ姿勢を持つ

幼児教育は、親子の関係を深める貴重な機会です。子どもと一緒に学び、楽しむことで教育効果がさらに高まります。

幼児教育の広告で目にする「IQ」の数字は一見すると魅力的ですが、医学的な検査とは異なる基準に基づいている可能性があります。IQの高さを目指すことに固執するよりも、子どもの将来に役立つ非認知能力を育むことに重点を置くべきです。また、幼児教育はあくまで子どもの成長をサポートするための手段の一つです。どの教育プログラムを選ぶにしても目的と着地点を明確にし、子どもの特性や家庭の状況に合った方法を選ぶことが重要です。

「子どもの成長に最適な選択をするためにはどうすれば良いか」を常に意識しながら、適切な教育を見つけていきましょう。それが子どもの未来を豊かにする最善の道に繋がるはずです。

  • 保田典子やすだのりこ
    高円寺こどもクリニック院長

筑波大学医学専門学群卒業。小児科医として国立病院などで診療にあたり、小児循環器を専門に経験を積む。その後、発達障害児を多数担当するようになったことで「子どもの心相談医」の資格を得る。2021年4月、高円寺駅そばに高円寺こどもクリニック開業。